人は大人になるにつれて「何かが好き」、その好きなものを「もっとうまくなりたい」という気持ちを忘れてゆくのかもしれない。北宇治高校一年生の黄前久美子は大人になりかけていた。このアニメはそんな久美子が吹奏楽部員、特に同級生の高坂麗奈との交流を通じて「ユーフォニアムが好き」「ユーフォニアムをもっとうまくなりたい」という気持ちに気づいていく物語を描いている。
私が最も印象的だったのは12話の久美子が街を駆けるシーンだ。
久美子は演奏の壁にぶつかり、「もっとうまくなりたい」と叫びながら橋の上を走っていく。まるで映画かと錯覚するような躍動感のある映像と、声優黒沢ともよさんの迫真の演技によって私は画面に没入した。本シリーズのキャラクターデザイン・総作画監督を務めた故池田晶子さんも同シーンを見どころとして挙げている。京アニを代表するアニメーターの池田さんは、母になった後でもなお「もっと絵が上手くなりたい」と日々その腕を磨いていたそうだ。
私は見終わった後、最後に「死ぬほど悔しい」と思ったのはいつだったろうと考え、その時の熱い気持ちを少し思い出した。